現役高校教師が実践しているペーパーレス への第一歩
学校現場で勤務されている先生方にとって、「紙」は身近な存在だと思います。
なくてはならない存在である一方で、毎日増え続ける文書の管理には苦労している人も多いのではないでしょうか。
私が教師となってすぐ、ある先輩のデスクの上には歳月をかけて築かれた紙々の山がありました。目的の文書を見つけるために二人でその山をひたすら探索したことも記憶に新しいです。
そんな私が、Web系の民間企業に一時身を置いた際、有給の取得、文書回覧、会議資料、進捗管理などなど、全てがペーパーレスとなっていたことには衝撃を受けました。
世間一般と学校現場とでは大きく異なると言われていることは百も承知ですし、世帯格差がある生徒を相手にする学校現場では、全ての生徒が平等に教育を受けるためにも「紙」の文化が根付いていることは理解していたつもりでいました。
しかしそれほどまでに差があるとは思わなかったことも事実です。
そう感じてから学校現場に戻るまで、どうにかしてペーパーレス にできる部分はないかな・・・と考えた結果と実践をまとめてみました。どうか現場で働く先生方にとって少しでも有益なものになれば幸いです。ご覧ください。
ペーパーレスをしないデメリット
まずはペーパーレスを考えず、がむしゃらに目の前の作業を先輩方に倣って取り組んでいたときの自分を振り返って、デメリットをあげていきたいと思います。
必要な書類がすぐに見つからないことがある
まだ教職についていない学生さんのためにも、詳しく説明していきます。
教員の仕事とは、自分の受け持つ授業の教材研究や授業研究がメインと思われがちですが、実際はそんなことはありません。
業務内容としては
- 授業に関すること
- 教科に関すること
- グループ(分掌)関すること
- 学年に関すること
- 担任に関すること
- 部活に関すること
- 研修に関すること
などがあります。詳細はまた別の記事をそのうち書くので参考にしてもらうとして・・・
ここで認識してほしいことは、それぞれの業務で、会議があったり、その書類を全て管理しなければならない。ということです。
私は合計で5校(2022年現在)の高校で勤務したことがありますが、会議の回数は
- 学年→週1回
- グループ→週1回
- 職員会議→月1回
- 教科→月1回
と頻繁に会議を行なっており、その度に紙の資料を配布されていました。
私なりに工夫して、業務ごとにフラットファイルで管理していましたが、どうしても管理する紙が膨大で、すぐに必要な書類を見つけ出すことができなかったことが何度もありました。
せっかく用意して、会議で書き込みもした書類をすぐ見つけ出せないのは、少し辛いですよね。
机に置かれる書類をなくしがち
先生方は会議や出張や部活と多忙な身であり、職員室を不在にしがちです。
そんなときによくあるのが、回覧、生徒への配布物、至急の案件などの書類を机に置かれるということ。その書類に付箋で用件が書いてある、なんて経験、現場で働いている先生方には覚えがあるのではないでしょうか。
私はどちらかというとデスク上は整理する方でしたが、どうしても用件が重なって書類えデスク上が溢れていることもありました。
そんなときの職員室に戻ってきたときの「回覧見た?」はどうしても焦りますよね。
幸い大きな事故は起こさなかったものの、探すのに手間がかかってしまう先生方も多く目にしました。教師という職業柄か「回覧置かれてたよ!」とお声掛けしてくださる先生方も多いですが、どうしてもという場面はあります。
普段からデスク上を整理していてもどうしようもない時がある、それならいっそのこと、ペーパーレス にした方が良いですよね。
年度末の机移動が大変
学生時代、席替えといえば生徒にとっての一大イベントでしたよね。ですが、実は教師にも席替えがあることをご存知でしょうか。
民間企業ではあまり馴染みはないかもしれませんが、教師は年度末に席替えがあります。理由は「学年団の再編成」です。
教師は頻繁に異動が発生するため、年度が変わるごとに大きく学年団も変わります。
また、職員室の座席の配置は基本的に学年ごとにまとまっている(私が赴任した5校は全てそうなっていました)ため、年度末に席替えが必要でした。
さて、ここで考えてみてください。
年度末、1年間という長い時間をかけて蓄積した大量の書類がデスクには眠っています。在籍年数が長期になっている先生に至っては、10年、20年といった書類が残っているかもしれません。
・・・想像に難くないですよね。
とても大変な思い(重い?)をされる先生方を目にしてきました。
私も勤務当初は同じような思いをしましたが、ペーパーレス を実践してからは、全く労せず座席移動することができました。
さて、いくつかデメリットを紹介してきましたが、いかがでしょうか。
様々な意見があると思いますが、ペーパーレスの実践を語るにあたって、
- 機械に頼るのは難しい
- iPadとか使うのはコストがかかるんじゃないか
- 忙しいから、今更時間をかけてするのは大変
など否定的な考えもあると思います。多忙な先生方にとってはもっともな意見です。
ですが、個人的な考えとしては「できることからやってみる」という観点で、今回の記事を参考にしてもらえれば何よりかと思います。
ステップ1:iPadを活用しよう
正直コストはかかりますが、これが最短、最適です。
それに教員の場合は「学生・教職員価格」で通常より安価に購入できるので、なおオススメ。参考までに値段は以下の通りです。
私は以前までiPad Pro 9.7インチの32GBモデルを利用していましたが、つい最近 iPad Air 5 の64GBモデルを購入しました。6年ほど使用しましたが、業務上支障が出ることも、壊れることもありませんでした。
様々な用途に利用できるiPadですが、どのモデルにするかは人ぞれぞれです。
ですが、今回のペーパーレス化については、最安モデルで十分ですので、二の足を踏んでいる方も手を出し易いかと思われます。
では実際のペーパーレスの方法にいきましょう。
アプリ『Good Notes 5』を利用する
Appストアで検索すると出てくるこのアプリです。
4.7と高評価です。
以前までは完全有料アプリでしたが、現在は一部無料で利用できます。
ただし、今回紹介するのは有料ありきです。
料金は約1,200円の買い切りなので、ぜひ騙されたと思って購入してみてください。
私もはじめは躊躇いましたが、まっっっっっっったく後悔しませんでした。
では実際の利用方法について紹介します。
まず、GoodNotes5のアプリを開いて、「スキャン書類」から書類をスキャンします。
カメラが起動するので撮影します。
「自動」に設定しておくと、下の画像のように書類を自動認識して撮影してくれます。
全ての書類をスキャンし終わったら、右下の「保存」を押すと書類が保存されます。
完成!
基本はこれだけです。これさえ実践すればほとんどの会議資料などはデータ化できます。
その他、便利な機能として「検索」があります。
例えば「数学」で検索した結果がこちらです。
スキャンした時に自動で文字を認識してくれるので、書類が多くなってきてもすぐに検索できます。
ということで、GoodNotes5の紹介でした。
スキャンした書類にApple Pencilで直接書き込めるのも魅力の1つです。
とても便利なので、ぜひ検討してみてください。
授業でのサブデバイスとして活用する
授業準備でプリントを大量に印刷していませんか?
私は以前、毎回の授業でプリントを作成・配布していました。
ただそうすると、プリントを紛失する生徒がいたり、逆にこちらが紛失してしまったり、はたまた、完全に行方しれずになったりすることがありました。
その対策の1つとして紹介するのが、
という方法です。
最近ではコロナの影響もあってか、教室内のICT環境も整ってきたように感じます。
プロジェクター+スクリーン+HDMIケーブル+変換器
さえ教室にあるのなら、あとはiPadをもっていけばいいじゃないですか。
活用方法として私が実践しているのは
- 資料の投影
- パワーポイントの投影
- 生徒の成果物や答案の投影
- Apple Pencilを用いて、黒板のように使う
などです。特に、最後の「Apple Pencilを用いて、黒板のように使う」は便利です。
私は担当が数学なので、座標平面や、図形だけ用意しておいて、あとはその場で書き込んで、生徒がリアルタイムでわかるようにしています。
こうすることで、時間の短縮にもつながりました。
ステップ2:授業を工夫しよう
上でも挙げましたが、授業準備でプリントを作成することがありますよね。
私は現在、授業のために印刷するプリントは0になりました。
その方法も含めてご紹介します。
授業はパワーポイントで行う
こちらは賛否両論あると思いますので、あくまで参考にしてもらえれば幸いです。
私は全ての授業でパワーポイントを作成しています。
パワポのデメリットは様々あると思いますが、私は、
生徒にデータを配布できる
という1点のメリットのために、パワポ を作成しています。
私が勤務する高校では、Google for Education を利用しているため、各授業の Classroom に毎回配信しています。
いつでも見返せるような環境を作っておくことが大切だと思います。
提出物はデータで提出
生徒の成果物を回収するときは、Google Classroomで提出させるようにしています。
Classroom についての詳細はまた別の記事で書くとして・・・
データで提出させることのメリットは
- 宿題を教員側がなくすことがない
- 生徒もいつでもどこでも提出できる
- 過去の成果物を、教員がいつでも確認できる
- 成績をつける材料になる
など数多くあります。
ただ、公立高校だとスマホやタブレットなどの電子機器を持っていない生徒がいるなど、どうしても家庭によって差があります。
貸し出しのタブレットを用意するなどの対応をする自治体もありますが、そこは家庭に負担してもらう必要はありそうです。
ただ、神奈川県などの一部自治体では、生徒一人につき一台のタブレット端末を家庭負担で用意するよう呼びかけるなど、自治体をあげて、来たる情報化社会を迎えようという動きがあるので、全国的にどうなっていくのか、今後期待したいですね。
ステップ3:デスク周りの整理しよう
最後に、デスク周辺の整理です。せっかくペーパーレスの環境を整えたのなら、デスク周りも整理して、より使いやすくしましょう。
シュレッダー専用箱を作る
書類をPDF化した際にも、もとの書類はなくなりません。ですが、毎回毎回シュレッダーにかけるのも面倒です。
そこで私は、デスク下にトレーを用意して「シュレッダー専用箱」にしています。
マグネット式だと、場所も選ばなくてよいので便利です。
ある程度の量になったら、一気にシュレッダーにかければいいだけなのでとても楽です。
フラットファイルは使わない
学校でよく見かけるのが、「フラットファイル」です。
めちゃくちゃ便利ですし、私も当初はお世話になりました。
ですが、ペーパーレスにするのなら
フラットファイルは使わない!
を徹底しましょう。
デスク内を圧迫する根源はこいつです。
ずっと使っていて、便利なのも分かってはいるんですが、つい頼ってしまいがちなのがこのファイルです。これを機に断捨離しちゃってください。
紙の保存は生徒の個人データだけ
ただどうしても紙媒体で保存をしなければならないものもあります。
それが生徒の個人情報がのった書類です。
それも1人につき何枚あるの???ってくらいありますよね。
こんなのどうしてもデスク内にしまうとパンパンになってしまいます。
さてそんな書類ですが、
普段使わないものは個人ロッカーにしまう!
を徹底しましょう。
生徒の個人情報の書類も、普段頻繁に使うのはごく一部のはずです。
教員には個人個人にそれぞれロッカーが割り当てられることが多く、そうでないとしても、学年の専用のロッカーがあります。
普段はそこに保管するようにして、自分のデスク周りは整理しておくことを心がけると良いでしょう。
どうしても紙で保存が必要なものは、即座に処理して指定の保管場所へしまう
その他、どうしても保存が必要なものもあります。
そんなものは、、、
即座に処理→指定の保管場所へしまう
を心がけましょう。大体が学校運営に関わる書類であることはずです。大抵指定の保管場所があります。
まとめ
まとめです。
- iPadを有効活用する
- 授業を工夫する
- デスク周りを整理する
これらを意識するだけで、ペーパーレス化が一気に進むと思います。
実際の現状に即した形で、実践できるものから進めていくだけでも効果的です。ぜひ、試してみてくださいね。
その他
その他、ICTの使い方がよくわからないという場合には、
- ICT技能員に協力してもらう
- 若手教員で詳しい人に相談する
など、専門的な方や、そうでなくとも詳しい方が1人はいるはずですので、協力してもらうと良いと思います。
今回紹介したのはあくまで一部の方法ですので、また、新しいアイデアがあれば、紹介していこうと思います。
以下は過去の記事です。興味あればご覧ください。